もっとつながろう、もっと楽しもうユニバーサルデザインStory
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。


施設の新築移転に伴い、全居室174室にベッドサイド水洗トイレを導入した「天草ナーシングホーム」。記事後編では、施設稼働後、ベッドサイド水洗トイレ導入によってご利用者様の生活やスタッフの労働環境に生じた変化、先進福祉機器が果たす役割や今後の期待についてお話しいただきます。
社会福祉法人清志会 特別養護老人ホーム 天草ナーシングホーム事務長
株式会社ニシケン メディカル 営業部 部長
TOTO株式会社 機器水栓事業部 機器商品開発部 主席技師
部屋のにおいがなくなり、トイレ介助や清掃の負担が激減
「さまざまな機器の中で、施設見学に来た方が一番強く反応されるのがベッドサイド水洗トイレです」と和泉さん
和泉和孝さん(以下、和泉)
水落健二さん(以下、水落)
堀内啓史(以下、堀内)
ベッドサイド水洗トイレを使用して、ご利用者様の生活に変化はありましたか?
これまではポータブルトイレに排せつしスタッフが処理することが当たり前だったので、ベッドサイド水洗トイレでも流すのはスタッフが行う想定でした。でも、だんだんとご利用者様から「自分で流したい」と言われるようになったんです。やっぱり、できることなら排せつ物は他人に見られたくないし、自分で流したいと思うものですよね。「自分で流せる幸せ」、そうした自然な感情の積み重ねが自立と尊厳につながってくるのだと思います。ただ、ご自分で流してしまうと排便状態の確認ができないので、いま対策を考えているところです。
また、居室のにおいが大きく変わりました。これまでも丁寧に掃除していましたし、ポータブルトイレは毎日洗っていましたが、どうしてもにおいが残っていたんです。ご家族が面会にいらしたときは一旦共用部でお待ちいただき、においを確認してから居室に通していました。いまはにおいがしないので、すぐにお部屋に入っていただけます。見た目も家具のひとつのように部屋に馴染んでいるので、隠す必要もありません。
最初はご家族も「移動式の水洗トイレなんてものがあるの?」と不思議そうにされるのですが、実際に水を流してみせると驚かれますし、「ベッドのすぐそばに置けるので、ご自身で自由に排せついただけます」とお伝えすると、とても喜ばれますね。
女性スタッフ1人でも動かすことができるベッドサイド水洗トイレ。日常の掃除も一般家庭のトイレと同じでよく、ポータブルトイレのようにバケツに水と消臭剤を入れてゴシゴシ洗い乾燥させるといった工程は必要ありません
スタッフの介助負担は軽減しましたか?
スタッフは夜勤時、ポータブルトイレを処理するためバケツを持って施設内を何度も往復していました。共用トイレまで歩いていかれる方の介助も、「排せつ物を他人に見られたくない」という想いから排せつを我慢し、その結果失敗されてしまう方の対応も必要でした。そうした介助や清掃の負担がなくなったのはかなり大きいと感じています。
「スタッフから、『排せつ後に処理する必要がなく、流すだけでいいのは本当に負担が軽くなった』という声が上がっています」と和泉さん
現場で活躍する、機能訓練指導員、ケアマネージャーなどスタッフのみなさんからも、ベッドサイド水洗トイレについてたくさんのお話をいただきました
スタッフの負担を軽減することで、人材を確保し介護の質を保つ
水落さんは今後ほかの施設にもベッドサイド水洗トイレを提案したいと思いますか?
天草ナーシングホームの内覧時にも、複数の病院や施設の方々がベッドサイド水洗トイレに興味を持って検討されていました。ただ、現行品には3つの改良ポイントがあると捉えています。1つめは、建物側に給排水工事が必要であること。費用や工事の手間を考えると、躊躇される施設も多いと思います。
2つめは、さきほど和泉さんからもお話があったように、ご利用者様ご本人が流せるので排便状態の確認ができないこと。福祉施設ではご利用者様の健康状態を把握するため、排便状態の確認を重視しています。福祉施設向けの何らかのオプションがあるといいのではないでしょうか。
3つめは、トイレットペーパーについて。現行品はアームレストにペーパーホルダーが取り付けられていますが、握力がない方、麻痺やリウマチがある方は、ご自身でトイレットペーパーを切り取ることが難しい。排せつは尊厳に関わることですから、「自分で拭くことができないなら我慢しよう」と考える方もいらっしゃるでしょう。そうなったらこの製品の意味がなくなってしまいます。
今後こうした点が改良されていくようでしたら、より積極的に提案させていただきたいと考えています。
クライアントやユーザーのニーズを捉え、製品に対する忌憚のないご意見を寄せてくださった水落さん
トイレットペーパーに関しては水落さんも含めてみんなで話し合い、水に流せるティッシュペーパーを手提げに入れてアームレストにぶら下げるようにしています。これならさっと引き出すだけなので、多くのご利用者様が使えるはずです。ただ、水に流せるティッシュペーパーが廃番になったら困ってしまいますね。
福祉施設へのベッドサイド水洗トイレ導入について、TOTOとして新たな気づきはありましたか?
ベッドサイド水洗トイレは長らく個人宅への導入が主流でした。施設での利用も少しずつ増えているものの、全居室に導入いただくのは今回が初めてです。やりとりをするなかで、一般家庭よりも移動の頻度やニーズがとても多いのだなと感じました。トイレットペーパーやリモコンについても、ご自宅では好きな場所に置いたり取り付けたりしていただけますが、施設の場合はルールがあるため、どこでもつけて良いわけではありません。使いやすさとどう両立していくか、まだ答えは出ていませんが、より良い方法を模索したいと考えています。
また、施工についてもさまざまな発見があったので、施設のみなさんの疑問を解消するため、今回の経験をもとに施工ガイドを刷新しました。

「移動方法や清掃に関する細かな質問が多かったことも印象的でした」と堀内さん

天草ナーシングホームへの導入を経て刷新したベッドサイド水洗トイレの「給排水設備設計施工ガイド」(全31ページ)(資料提供/TOTO)
ベッドサイド水洗トイレをはじめ、先進福祉機器が果たす役割や期待についてお話しください。
福祉業界の人手不足は深刻です。意識して働きやすい環境を整えなければ良い人材を確保できないし、介護の質を保つこともできません。スタッフの負担軽減につながるのであれば、今後も積極的に先進機器を導入していくべきだと思っています。
ただ、スタッフの利便性だけを追求していくと、ご利用者様の自立心を妨げてしまう場合があります。一方で、ご利用者様の満足度しか考えなかったら、スタッフの負担は軽減されていかない。先進機器の役割や目的をしっかりと見極め、ご利用者様にとってもスタッフにとっても安全・安心で快適な施設にしていけたらと考えています。
TOTOは2026年10月7日(水)~9日(金)の3日間、東京ビッグサイト(江東区)で開催される国際福祉機器展に出展いたします。TOTOの福祉機器などをご紹介するとともに、本コラムで取り上げた「ベッドサイド水洗トイレ」も展示いたします。皆様のご来場を心よりお待ちしております。
編集後記自然豊かな丘陵地に建つ、管理棟を囲むようなレイアウトの施設。取材で実際にその場に身を置いてみると、相当のインパクトがありました。ただ建物を刷新するだけでなく、ご利用者様とスタッフの皆さんが長らく快適に過ごせ、また働けることを熟慮してこの形を導いたとのこと。「ベッドサイド水洗トイレ」を選んだのもその一環とお聞きして非常に共感しました。さまざまな先端の設備の助けを借りることで、誰もが無理せず持続的に共存できる施設は思いのほか早く増えていきそうです。編集者 介川 亜紀
写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀 2026年9月11日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。