もっとつながろう、もっと楽しもうユニバーサルデザインStory
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
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東京・目黒区にある「はちくりはうす」は、オーナーの竹村眞紀さんが、「障害のあるわが子が地域の人とつながりを持ちながら暮らしていけるように」と計画した店舗付き住宅です。1階はカフェと居宅介護事業所とショートステイ、2階は障害者も暮らしやすい設えのシェアハウス、3階は賃貸住宅、4階は共用ダイニングキッチンと屋上テラス。障害のある人もない人も、助け合って豊かに暮らせる住まいを実現させた竹村さんと、設計を担当したブルースタジオの薬師寺将さんにお話を伺いました。
はちくりはうすオーナー
株式会社ブルースタジオ ゼネラルマネージャー障害のある人も、住まいの選択肢を持てるようにしたい
竹村眞紀さん(以下、竹村)
薬師寺将さん(以下、薬師寺)
「はちくりはうす」は、カフェやショートステイ(※)を併設する、地域に開かれたシェアハウスとして注目を集めています。改めて概要をお聞かせください。
この建物は、鉄筋コンクリート造の4階建てです。1階がテナント、2階は障害者がヘルパーとともに自立した生活を送ることのできるシェアハウス、3階は障害者の家族やヘルパーが住むことを想定した賃貸住宅、4階が共用のダイニングキッチンと屋上テラスになっています。
1階のテナントは、カフェと障害者自立支援のための居宅介護事業所です。カフェの店主は日替わりで、誰もが気兼ねなく立ち寄っていただけるよう、「編み会(集まって編み物をする会)」などのイベントを催しています。居宅介護事業所は「NPO法人はちくりうす」が運営しており、障害者向けのショートステイ事業と地域へのヘルパー派遣事業を行っています。ここに暮らす人たちだけでなく、地域の障害者のケアも担います。
さまざまな人が立場を超えてつながっていける集合住宅というコンセプトが評価されて、2024年のグッドデザイン金賞を受賞しました。
(※)障害者が自立に向けた宿泊訓練などを行う短期入所施設
オーナーの竹村さんが、「地域に開かれたシェアハウス」にしたいと思われたのは、どういう理由だったのでしょうか?
今30代のうちの子が小学生の頃から、私は「住まいをどうしていくのがいいか」と考えていました。「障害のある人は施設へ」という選択肢しかない時代を経て、グループホーム(※)で暮らす人も増えてきていろいろ見学してみたのですが、イメージする普通の暮らしではない気がして。
(※)障害のある方が地域の中で共同生活を行う住まい
うちの子の様子を見ていると、とても人が好きなのが分かります。そこから、「おのずと人と人が助け合える」「その人(居住者)らしい暮らしができる」「地域に開かれている」、そんなシェアハウスをつくれないかと考えるようになりました。
そんなとき偶然、あるテレビ番組で、ブルースタジオのクリエイティブディレクターの方が「建物が単体で完結するのではなく、まちの中で生きていくようなデザインをしたい」とおっしゃっているのを聞き、設計はこの会社に頼みたいと思ったんです。両親の介護やコロナ禍の影響で、実行に移すまでに5年近くかかってしまいましたが、そうした考えをずっと持ち続けていました。
最初にお話をいただいたとき、当社はそれまでいわゆる福祉系の施設などは手掛けたことがないため戸惑ったのですが、竹村さんの構想を聞くうちに、目指しているのはあくまでも住まいということが理解でき、お引き受けすることにしました。
はちくりはうすの外観。「2方向避難がしやすい角地であること」「店舗ができること」「屋上がつくれること」という条件を満たす土地をじっくり探しました

「どういう暮らし方をしたいか、その暮らし方を選べるのが健全でしょう。その選択肢の一つとしてシェアハウスがあるといいなと思います」とオーナーの竹村さん

設計を担当した薬師寺さんは、「施設ではなく住宅だということを意識し、廊下や窓には温かみの感じられる無垢フローリングや木製サッシを提案しました」と話します
「人を引き寄せて交流を呼ぶデザイン」を意識した設計
はちくりはうすの設計にあたり、どのような課題がありましたか?
障害者の方が暮らす住宅を設計するのは初めてでしたが、当然ながら「車いすが転回するのに必要な廊下の幅」などのバリアフリーに関する基本的な知識はありました。竹村さんもこれまでの生活の中で必要なサイズ感が身についておられたので、話を伺う中で設計に必要な寸法はおおよそ把握できました。
とはいえ、166.6m2の限られた敷地にたくさんの用途を入れ込むのには苦労しましたね。この建物はシェアハウス(建築基準法用途:寄宿舎)、賃貸住宅、ショートステイ2床を併設した居宅介護事業所、カフェと4つの用途を含み、「屋上も使いたい」というご要望でした。またショートステイにはベッド1床あたりの床面積や居宅介護事業所(建築基準法用途:児童福祉施設等)の東京都建築安全条例の基準で廊下や階段の幅員等や障害者総合支援法で面談室を設けるといった条件を満たす必要もあり、全体をうまくまとめるのが大変でした。容積率(※)は200%でしたが、199.9%とほぼ余すことなく使っています。
(※)敷地面積に対する建物の延床面積の割合
設計でこだわったのは、どんなところでしょうか?
1階のカフェについては、たまたま通りかかった人が「素敵だから入ってみたい」と思うような場所にしたい、という想いがあり、薬師寺さんに伝えました。
その話を受け、「人を引き寄せて交流を生むデザイン」を意識して設計しました。目黒区内には街道筋や辻に「庚申塚」が数多く現存し、旅人を導く道しるべとなっています。シェアハウスはそんな庚申塚のような、”まちかどのシンボル”として意識しています。
1階に2面がガラス張りになったカフェを配してまちに開いた構成と凹凸のある外観としたこと。また、1〜4階までの気配を感じられる吹き抜け階段としたことなどもそうです。
障害者だけの住宅ではなくて、「いろいろな人が住んでいる中に障害者もいる」、という状態が面白いと思います。はちくりはうすを見学した健常者の方から、「障害がなくても入居できますか?」という質問を受けたことがあり、嬉しくなりました。
1階のカフェ。2面に全面ガラスの引戸を付けたことで、明るいつくりになりました


店主が日替わりのカフェでは、月曜日は地域のママさんによるランチとスイーツ、火曜日は台湾のヴィーガンフードを提供。水曜日から日曜日は竹村さんの昔の仕事仲間が「犬みみカフェ」を担当しています
障害のある人が暮らすことを想定した工夫は?
シェアハウスの各個室の床は、廊下に面した「小上がり」にしています。車いすからの移乗や介助をしやすくするため、小上がりの高さは車いすの座面高さに合わせました。腰掛けて縁側のようにも使えるし、床下は大きな収納スペースにも活用。室内に物を増やさずに済み、すっきり暮らせると思います。
2つの個室の間に設けた脱衣所の床も、同じ高さです。個室と脱衣所の間は引戸にし、両側の個室から廊下を介さずに直接脱衣所と浴室へ行けます。
シェアハウスの個室は小上がりになっています。床の高さを車いすの座面に合わせ、車いすから移乗しやすくしました。写真手前は、リフト(移動・移乗機)、踏み台はヘルパーさんの昇降用です
「飛び跳ね」などの床衝撃音対策と将来的に間取りを変える自由度を残すために室内に躯体壁が少なくてすむ「ボイドスラブ工法」を採用しました。天井や床の(構造体である)スラブの厚みを厚くして防音性能を高めつつ、空洞を設けてその中に発泡剤を充填し、重量を軽減する方法です。
浴室の脱衣所も、個室と同じ高さの小上がり。引戸を開ければ、個室から廊下を経ずに移動できます。廊下側から車いすでアクセスする場合も、リフトの脚が床の下に入り、奥までしっかり押し込めるため移乗しやすくなります
竹村さんは、以前のお住まいでは、水まわりにどのような悩みがありましたか?
ごく普通のマンションや戸建てに住んでいたので、特に浴室の狭さが問題でした。障害の状態は人それぞれですが、うちの子は座位が取れません。リクライニング式の洗身チェアを持ち込み2人で介助するので、広いスペースが必要です。
介護用のユニットバスは突起物が多くて介助しにくいように思ったので、通常のタイプで広いものを探してもらいました。結果、2.5cm刻みでサイズがオーダーできるユニットバスを見つけ、十分な広さやレイアウトの浴室をつくることができました。これは本当に助かりましたね。
サイズオーダーしたユニットバス。洗身チェアを入れても2人で介助ができる広さを確保しました
はちくりはうすを中心に、広がる「ご縁」の輪
「はちくりはうす」という名称の由来は?
1階にテナントとして入居していただいている「NPO法人はちくりうす」さんの名前を借り、家という意味の「ハウス」を組み合わせました。「はちくりうす」は、昔話の「さるかに合戦」で、蟹を助ける蜂(はち)、栗(くり)、臼(うす)にちなんでいます。
はちくりうすさんには、20年以上前からうちの子の入浴介助などをお願いしていたご縁で、はちくりはうすの計画段階から入居をお誘いしていました。
「はち」「くり」「うす」をモチーフにしたはちくりはうすのロゴマークの付いた館名板。入居者や来訪者が触ってもケガをしないよう丸みを帯びた仕様とし、車いす使用者や子どもにも見やすいよう壁に低めに掲示しました
竹村さんはよく「ご縁」という言葉を使いますよね。
はちくりはうすは、私一人ではとうてい実現できませんでした。これまでの「ご縁」でつながった仲間たちが力を貸してくれたからこそ、完成までこぎつけられたのです。はちくりうすさんも、カフェの日替わり店主の皆さんも仲間だし、シェアハウスや賃貸住宅の入居者さんも以前からの知り合いです。
私は一人親なので、昔から、欠けているところをいろんな人たちがサポートしてくれる感じだったんです。だからこそ、こういう「ご縁をつなぐ場」をつくりたいと思いました。
竹村さんは設計前の土地探しの頃から、そうした「ご縁」でつながった方々と一緒に計画してこられましたよね。月に1回は定例会議を開いて、情報を共有していらした。竹村さんの「巻き込み力」はすごいな、と思っていました。
いろいろな人が関与してくれることは、セーフティネットにもなります。もし私がコロッと逝ったとしても、ほかの誰かが「(シェアハウスの住人たちを)なんとかせねば」と思ってくれるかもしれない。閉じた暮らしをしていたら、子どもが今どういう暮らしをしていて何が好きかなども、誰も知らない、ということになってしまう。
例えばカフェで誰かと、「この前、どこそこへ行ったの」「そう、楽しかったのね」といった会話が日常的に交わされていれば、「あの人は〇〇が好きみたい」と分かってもらえるでしょう。閉じていたら何も始まらないけれど、つながることで生まれてくるものって、なんて豊かなのだろう、と思います。
本当にそうですね。「ご縁」や「つながり」を大切にする竹村さんを見ていて、こちらから提案したのが吹き抜け階段でした。容積率に余裕のない中で、一番贅沢な空間がこの吹き抜け階段だと言ってもいいかもしれません(笑)。
吹き抜けを通して、下のカフェからいい匂いがしてきたりね(笑)。3階は廊下の幅が広いので、階段のまわりに本棚を設えて、図書館のようにしました。ここの本を持っていって1階のカフェで読んでもいいですし、自由に使ってもらえたら、と思っています。
1階から4階までつながる吹き抜け階段。3階は幅の広い廊下を利用して、竹村さんの蔵書を並べた図書室にしています(写真提供/Kenya Chiba)


誰でも使えるようにした1階のバリアフリートイレ。オストメイト対応の便器や折りたたみ式介助ベッドを設置
自由に使えるといえば、1階のバリアフリートイレもそうですね。竹村さんのご意向で「バリアフリートイレ登録」をしてあるので、入居者やショートステイの利用者、カフェのお客さんはもちろん、通りすがりの人でも誰でも使うことができます。車いす使用者が出入りできるようにするために、間口に合わせて折戸を造作しました。
1階バリアフリートイレのドアはベッドとの干渉を防ぐために1(左):2(右)の幅の異なる扉を組み合わせた折戸を造作しました
4階の共用ダイニングキッチン。入居者はもちろん、関係者なら誰でも利用できます
4階の共用ダイニングキッチンから連続する屋上テラス。車いすでも作業がしやすい高さのプランターを置きました。移動しやすいようにウッドデッキにはスロープを敷設
はちくりはうすに引っ越されて2年近くたちますが、住み心地はいかがですか?
うちの子に「新しいおうちはどう?」と聞いたら、「ふちゅう!」って(笑)。普通かぁ、とガクッときましたが、考えてみたら、私たちは「普通の暮らし」を求めていたのですから、一番よかったなと思いました。
シェアハウスは、みんなで助け合いながら暮らしやすい住まいの仕組みです。例えば、ヘルパーが3人いれば、災害時にも一人が給水所へ行って、後の二人が入居者全員を見るなど、臨機応変な対応ができるでしょう。
私たち親世代がいなくなったら、3階の賃貸住宅にはいろいろな人が入ることを想定しています。「みんなで楽しく笑ってやっていこう」という気持ちのある人なら、誰が入居しても、きっと面白いことになるんじゃないかな、と期待しています。
カフェの前で話す竹村さんと薬師寺さん
注)国連の障害者権利条約の理念に基づいて、障害は個人の側にある(医学モデル)のではなく、社会構造の中にこそある(社会モデル)という視点から、当記事につきましては課題の焦点がぶれないようあえて「障害」という表記を使用しています
編集後記心身のコンディションを含め人はまさに千差万別。地域の人たちが互いに不得意な部分を少しずつ支え合うことができれば、社会は、さまざまな人が当たり前のように交わりながら幸せに暮らせるものへと醸成していくのではないでしょうか? その核となる場づくりに挑んでいる「はちくりはうす」。障害者が地域に溶け込んでいく工夫と思いが盛り込まれたこのような住宅が広く知られ、日本中に増えていくことを心から願っています。編集者 介川 亜紀
写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/三上美絵、構成/介川亜紀 2025年11月14日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。