もっとつながろう、もっと楽しもうユニバーサルデザインStory
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。


2025年8月にTOTOのパブリックトイレ向けの便器洗浄リモコンとウォシュレットリモコンである「エコリモコン」がリニューアルされました。このエコリモコンの開発は、視覚に障がいのある方などの当事者検証を通して得た気づきをもとに行われました。
記事後編では、認識性、視認性を高めるため、当事者の皆様との対話を通してどのように商品を改良していったのか、その発想やプロセスなどを紹介。また、視覚に障がいがある当事者の観点から、進化したエコリモコンの感想を語っていただきました。
エコリモコンの製品紹介はこちら
※リニューアルしたエコリモコンは、ウォシュレット アプリコットPに搭載されています
社会福祉法人 日本点字図書館 理事長/国立筑波技術大学 名誉教授
東京大学 先端科学技術研究センター 特任研究員/NPO法人バリアフリー映画研究会理事長/内閣府障害者施策アドバイザー
品川区視覚障害者福祉協会 副会長/視覚障害ガイドヘルパー養成当事者指導者
TOTO レストルームパブリック商品企画第1グループ
TOTO UD検証グループ
便器洗浄ボタンを、四角や楕円形に感じる方もいる


公共トイレ操作系JISにより、「便器洗浄ボタンの形は丸形、色は無彩色または寒色系。呼出ボタンの形は四角か三角など便器洗浄ボタンと区別しやすい形、色は暖色系」と定められています。「各メーカーがJISをきちんと守ると同時に、JISの内容が周知されていくことが重要ですね」と長岡さん
長岡英司さん(以下、長岡)
大河内直之さん(以下、大河内)
西島幸代さん(以下、西島)
内藤孝平(以下、内藤)
北野一雄(以下、北野)
当事者検証を積み重ねる中で、どのような気づきがありましたか? 印象に残っているエピソードを教えてください。
公共トイレ操作系JIS(JIS S 0026)では、不特定多数の人が利用する公共トイレで便器の横壁面に便器洗浄ボタンを設置する場合は「便器洗浄ボタンの形状は丸型とする」と記載されていて、現行品もボタンは丸形にしていました。しかし、全盲の方に現行品の便器洗浄ボタンに触れていただいたときに、「四角いボタンだと思う」「青い丸の部分は、触ると楕円形に感じる」と言われて驚きました。ボタン可動部が四角いことや、青い丸部分をボタン形状に沿わせた形状にしていたことで、触知で捉える形状がこちらの意図する形と異なっていました。これは当初の開発時には気づけなかった視点でした。今回の改良では、ボタン全体を大きな丸形にするとともに、丸の表面を平面にして、触覚でも丸形を確信いただけるようにしました。
普段はルーペを使って文字を読んでいる弱視の方からは、「トイレでは便器に落とす恐れがあるのでなるべく使いたくない」とご教示いただきました。そのため新エコリモコンでは、「おしり」「止める」「流す」などの主要な表示は、ルーペを使わなくても見える文字サイズとしました。


左が現行品、右が改良品。ボタンは、「触覚でも間違いなく丸形だとわかること」を大事にしました。現行品で四角いボタン全体を斜めにしていたのは、てこの原理を使い、力が弱い方でも押しやすくするため。改良品では丸いボタンに同様の機構をつけ、小さな力でもボタンを押せるようにしています。また、ボタンの青い色も、「背面のシルバーと識別でき青色と認識しやすく、かつボタンに描かれた渦巻き模様の白いピクトグラムも見えやすい色調」にこだわりました
さらに、便器洗浄ボタンを確認する方法が、人によりさまざまだったことも課題になりました。ボタンの丸い形を確認する方もいれば、点字や触知記号を活用する方、「流す」という文字や青色で判断する方もいらっしゃいました。ほかにも「一番大きく丸いボタンに触知記号がついているから、これが流すボタン」というように、複数のことを組み合わせて判断している方も。当事者の皆様がどのように便器洗浄ボタンと判断しているか、一つ一つの方法に着目して改良していきました。
さきほど、認識性を高めるためにリモコンの厚みを半分以下にしたという話をしましたが、開発チームは当初、「そこまで薄くするのは難しい」と難色を示していました。しかし、当事者検証を通してリモコンを見つけられないときの焦りや辛さなど当事者の皆様の声を聞き、開発チームも「こんなに困っている人がいるなら、やってみよう」と奮起していきました。発電モジュールを一から設計し直して、この薄さを実現したのです。当事者検証を行ったからこそ、社内が一丸となって開発を進められたのだと思います。
「自己発電するというエコリモコンの特長を残しながら半分以下の薄さにするのは大きな挑戦でした」と内藤さん。「ウォシュレットリモコン上面に便器洗浄ボタンが一体的に設けられているタイプもありますが、この薄さだとさすがにそこにはないだろうと推測できるので、そういう意味でも便器洗浄ボタンを見つけやすくなったと思います」と大河内さん


「ウォシュレットリモコンのボタンが四角であるのに対し、便器洗浄ボタンだけが丸形です。JISで便器洗浄ボタンは丸形と定められていることを知っている方なら、『これが洗浄ボタンだ』と確信を持って押せるのではないかと思います」と北野さん
ほかの障がいがある方の使いやすさも損なわないように
多様な方々の声を聞く中で、「進化させる部分」と「変えない部分」はどのように決めましたか?
パブリックトイレは多様な方への配慮が求められますので、初めにこの商品を使用する方を想定しました。そのため、視覚に障がいがある方だけでなく身体に障がいのある方なども念頭に置いています。「どんな方のために、どう変えると良いか」「変えることで、ほかの方が使いにくくならないか」といった検討を繰り返しました。
たとえば、ウォシュレットリモコンのボタンの数は少ない方が目的のボタンを見つけやすくなります。しかしながら、身体に障がいのある方の中には、お尻を拭いたり、便座に座ったあと座り直すことが難しい方もいます。その方にとっては、ウォシュレットの当たる位置や水勢の調節、温風乾燥の機能も重要になります。必要な機能は減らさずに、目的のボタンを見つけやすくするためにボタンの大きさなどの工夫をすることにしました。
使いやすさとデザイン性の両立について、苦労した点、新たな発想がありましたら教えてください。
視認性だけを考えたら、文字を大きく表示したり、強いコントラストをつけるのが有効です。しかし、「いかにも障がい者向けの特別なリモコン」というデザインになってしまうと、パブリックトイレの設置者であるお施主様や空間をデザインする設計者様に敬遠され、バリアフリートイレにしか取り付けられなくなる可能性があります。
視覚に障がいのある方の多くは一般トイレを利用すると伺っています。一般のトイレにも普及し多くの使用者に使いやすいリモコンになるように、「使いやすさ」と「空間に調和するデザイン」のバランスを大事にしました。
さまざまな試作品。ボタンを黒くして文字とのコントラストによって視認性を高める案も出ましたが、デザイン性の配慮から採用はしませんでした
便器洗浄ボタンがわかりやすくなり、より安心して使えるようになった
改良されたエコリモコンに初めて触れたとき、当事者の皆様はどのような感想を持たれましたか?
各ボタンの機能が触覚で識別しやすくなり、確実に操作できるようになりました。これが普及していくと、安心してトイレを利用できると思います。さらに希望を言うと、ウォシュレットリモコンの位置についても一定の基準ができて、その範囲内で(パブリックトイレに)設置していただけるようになったら、より助かりますね。
便器洗浄ボタンがひとつだけになり、ウォシュレットリモコンはメインのボタンと調節ボタンが区別しやすくなって、非常にわかりやすくなったと感じました。また、わかりやすさとデザイン性の両方を追求してくださったことが、とてもよかったと思います。一般的に、わかりやすさを追求すると、どうしてもデザイン性は失われていく傾向があります。
特に福祉機器では「デザイン性は二の次」とされることが多く、普通の人が使う商品と線が引かれている感覚があります。でも、工夫すればわかりやすさとデザイン性は両立できるんですね。この20$301C30年で、ユニバーサルデザインはここまで進化したのだ、とこの商品から感じました。
私はロービジョンなので、触覚だけでなく視覚での見えやすさにも配慮してくださったことが嬉しいですね。大きな文字であれば顔を近づけて読むことができます。
大きな文字での表示は、認知機能が低下した高齢者の方にも使いやすいと評価をいただいています。経済産業省が主催しているオレンジイノベーション・プロジェクトに応募し、一人で外出先のトイレを利用する軽度認知症の方にも検証に参画をお願いし、改良品のエコリモコンをご覧いただきました。文字でボタンの機能を理解して安心して押せるとの声をもらい、多くの人の使いやすさにつながる商品になっていることが実感でき嬉しく思いました。
便器洗浄ボタンを大・小で分けずひとつにしたと聞いて、「ありがたいけど、節水ではなくなっちゃうのかな」と心配になったのですが、便座に座った時間を計測して水量を自動で調節していると知り感激しました。




3人とも、リモコンを触って比べながら感想を述べてくださいました
バリアフリーとユニバーサルデザイン、両方の視点が大事
TOTO のものづくりプロセスに関して、共感された部分はありますか?
さきほど「検証で当事者の声を聞いたことで開発を頑張った」というお話がありましたが、ユニバーサルデザインは困りごとを皆様に知っていただくところから始まるのですよね。視覚障がい者がどんな困りごとを抱えているのかを知っていただけたこと、自分もそのプロセスに参加できたことを大変嬉しく思っています。
視覚を介さない探索や操作の方法については、どんなに優秀な開発者の方々でも、当事者でない限りは想像が及ばない部分が必ず出てくると思います。誰もが使いやすい商品を開発しようと思ったら、当事者がものづくりのプロセスに参加することは本来必要不可欠なのではないでしょうか。今回TOTOさんはそこにきちんと取り組んでくださっていて、その企業姿勢に共感しました。
よく、バリアフリーを発展させたものがユニバーサルデザインだと思われがちですが、それは違います。バリアフリーとはさまざまな障壁を除去・軽減すること、ユニバーサルデザインは多様な人が使いやすいように考えて最初から配慮しておくこと。めざすものは同じでもアプローチは異なるし、両方の視点が大事なのです。
たとえば、「車いす用トイレ」を「だれでもトイレ」にしたことで、さまざまな人が使うようになり、ほかに選択肢がない車いす使用者が長時間待たされることになってしまいましたよね。「みんなの使いやすさ」だけを考えていくと、「障壁が除去されているか」という視点が抜けがちです。一方で、当事者は自分の障がいを中心に物事を考えるので、ともすれば、自分にとっての使いにくさを解消する手段が、ほかの障がいのある方の使いにくさを新たに生み出してしまうかもしれない、という点に気づけないことがあります。
TOTOさんは早い段階から、多様な当事者の障壁を整理して個々にどう除去するかを考えつつ、多くの人にとって使いやすいものになることを考えていました。バリアフリーとユニバーサルデザイン、両方の視点を大事にしながら調整を図っていた。それがすばらしいと思います。
皆様がご自身の経験や考えを共有してくださったおかげで、多くの人に使いやすいエコリモコンになったと思います。本当にありがとうございました。
※弱視(ロービジョン):本コラム中では弱視をロービジョンを含め、眼鏡やコンタクトレンズを使用しても十分な視力を得られない方、として表現しております。
TOTOは2025年10月8日(水)~10日(金)の3日間、東京ビッグサイト西・南展示ホール(江東区)で開催される国際福祉機器展 H.C.R.2025に出展いたします。TOTOの福祉機器などをご紹介するとともに、本コラムで取り上げたエコリモコンも展示いたします。皆様のご来場を心よりお待ちしております。
編集後記より多くの人にとって使いやすい商品をつくる。それはよく聞く文言でありながら、実現するために、うかがい知れない回数の検証や改善の繰り返しが必要であることを実感。さまざまな当事者のご意見をかみ砕き、要点を抽出して、ひとつの形に練り上げていくというプロセスからは、単に使いやすさ=最大公約数ではないことも見えてきました。今回の取材は、私にとってユニバーサルデザインの在り方を再考する機会ともなりました。惑うことなく検証の様子を取材させてくださった長岡さん、大河内さん、西島さんにあらためて感謝申し上げます。編集者 介川 亜紀
写真/鈴木愛子、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀 2025年9月8日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。