数寄屋建築を代表する中村外二工務店の二代目棟梁 中村義明
和の本質を追求した棟梁の軌跡
昭和の数寄屋建築を代表する名大工・名棟梁 中村外二が興した「中村外二工務店」は、長年、裏千家家元の出入り方を担うとともに、俵屋旅館や美山荘、和久傳、叶 匠壽庵、ふきあげといった名店にとっても、出入り方大工としてなくてはならない存在です。
二代目棟梁 中村義明(1946~2022)は、伝統的な数寄屋の技術・精神を継承しながらも、現代を代表する建築家たちの作品(吉村順三設計「ネルソン・ロックフェラー邸」、磯崎新設計「有時庵」、横内敏人設計「若王子の家」、岸和郎設計「紫野和久傳」、I・M・ペイ設計「MIHO MUSEUM」など)にも深く関与し、彼らとともに、いまの時代にふさわしい「和の本質」を追求しました。
本書では、数寄屋建築を代表しながらも、その枠を超えようと常に試みていた中村義明の事績と哲学を紹介します。
プロフィール
中村義明
1946年、京都府に生まれる。1969年立命館大学経営学部卒業、中村外二工務店入店。1997年に父の跡を継いで中村外二工務店代表となる。携わった主な造営は大阪万博日本庭園内茶室「汎庵」「万里庵」(1969)、「ネルソン・ロックフェラー邸」(1973)、「神宮茶室」(1985)、MIHO MUSEUM「光の庭」他の作庭(1997)、京都迎賓館主賓室(2004)、羽田空港第三ターミナル「江戸小路」(2020)など多数。また1984年には株式会社興石を設立、和風照明の製作とデンマーク家具の輸入販売にも力を入れる。2010年、歴史に残る茶室建築により茶道文化の隆盛に寄与したとして茶道文化振興賞を受賞した。2022年2月、75歳にて永眠。
岸和郎(建築家)
1950年、横浜生まれ。1973年京都大学工学部電気工学科、1975年同大学建築学科卒業。1978年同大学院修士課程修了。1981年岸和郎建築設計事務所設立。1993年K.ASSOCIATES/Architectsに改組改称。京都芸術短期大学、京都工芸繊維大学、京都大学、京都芸術大学で教鞭をとり、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学で客員教授を務め、現在、京都美術工芸大学特任教授。アメリカ建築家協会名誉フェロー。主な受賞に、JIA 新人賞(1993)、ケネス・F・ブラウンアジア太平洋デザイン賞功労賞(1995)、日本建築学会賞(1996)、デダロ・ミノス国際賞審査員特別賞(2006)、アジアパシフィックインテリアデザイン賞金賞(2008)、香港デザイナー協会グローバルデザイン賞金賞(2012)、フリッツヘーガー賞2014ブリックアーキテクチャ部門特別賞(2014)など。
三宅理一(建築史家)
1948年、東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程を経てパリ・エコール・デ・ボザール卒業。工学博士。芝浦工業大学、リエージュ大学、慶應義塾大学、パリ国立工芸院で教鞭をとり、現在、谷口吉郎・吉生記念金沢建築館館長。建築史、デザイン理論、遺産学を専攻。ポンピドーセンター、ヴィトラ・デザインミュージアムなどで多くの国際展の企画を行う。瀋陽市ユネスコ世界遺産登録の業績に対して瀋陽市栄誉市民、日仏学術交流の業績に対してフランス政府より学術教育功労勲章(オフィシエ等級)を授かる。著書に『パリのグランド・デザイン――ルイ十四世が創った世界都市』(中公新書、2010)、『限界デザイン――人類の生存にむけた星の王子さまからの贈り物』(TOTO出版、2011)、『デザインで読み解くフランス文化』(全2巻、六耀社、2012-14)、『安藤忠雄 建築を生きる』(みすず書房、2019)、訳書に『アルド・ロッシ自伝』(鹿島出版会、1984)、マルク=アントワーヌ・ロージエ『建築試論』(中央公論美術出版、1986)、共著書に『動都 移動し続ける首都』(平凡社、2024)など。
横内敏人(建築家)
1954年、山梨県甲府市生まれ。1978年東京藝術大学美術学部建築科卒業、1980年マサチューセッツ工科大学建築学科大学院修士課程修了。建築学修士。1981-82年アーキテクチュアル・リソーシズ・ケンブリッジ(米国)、1983-87年前川國男建築設計事務所勤務。1991年横内敏人建築設計事務所設立。1987-94年京都芸術短期大学、1994-2024年京都造形芸術大学で教鞭をとる。主な受賞に、山梨県建築文化賞(1992、2001、2014)、京都市芸術新人賞(1996)、木の建築賞(2004)、京都府文化功労賞(2008)、三重県建築賞知事賞(2015)など。
中村公治
1972年、京都府生まれ。1996年京都工芸繊維大学造形工学部造形工学科卒業、中村外二工務店入店。個人邸や茶室、店舗、レストラン等を多々担当すると共に、羽田空港第三ターミナル「江戸小路」(2010)、同「はねだ日本橋」(2014)、中国・深圳での「ファーウェイ迎賓館 京都古街」(2020)等の大型プロジェクトでも現場を統括する。2022年、父義明の逝去にともない中村外二工務店代表となる。近年は関西学院大学建築学部で講義を行うなど若い世代の育成にも尽力する。